地域住民コホート調査を基に、喫煙歴と受動喫煙の組み合わせが死亡リスクに及ぼす影響を検討した研究論文が、BMJ Public Health誌に掲載されました。
喫煙は心血管疾患やがん(肺がん、肝臓がん、胃がん、膵臓がん、腎臓がん、膀胱がん、大腸がんなど)と関連することが知られています。また、受動喫煙も肺がん、心血管疾患、脳卒中などとの関連が報告されています。しかし、現在も世界で10億人以上が喫煙しており、受動喫煙による死亡者は年間約130万人と推定されています。喫煙と受動喫煙は、依然として公衆衛生上の大きな課題です。特定の危険因子(喫煙など)がなければ、どれだけ健康被害(がん死亡や全死因死亡)が減少するかを示す指標として、「集団寄与危険割合(Population Attributable Fraction, PAF)」が用いられます。PAFは集団全体における疾患への危険因子の影響の大きさを示す指標であり、公衆衛生学的に重要です。2004年に出版された宮城県コホート研究では、全死因死亡に対する喫煙のPAFは男性で34%、女性で4%と推定されています。また、世界的に喫煙対策が進んできましたが、2019年で世界の全死因死亡に対する喫煙のPAFは、男性約20%、女性で約6%と報告されています。しかし、従来の研究の多くは能動喫煙のみに焦点を当て、受動喫煙の影響を考慮していませんでした。そのため、喫煙とそれに伴う受動喫煙の影響が過小評価されている可能性がありました。
本研究では、宮城県と岩手県で実施された地域住民コホート調査参加者を対象とし、能動喫煙と受動喫煙の組み合わせと死亡リスクとの関連を分析し、能動喫煙のみを考慮したPAFと、受動喫煙を含めたPAFを比較しました。その結果、女性では非喫煙者であっても受動喫煙を受けていると死亡リスクが高いことが明らかになりました。また、受動喫煙の有無に関わらず、過去喫煙者では死亡リスクが高くなっていました。さらに、能動喫煙のみを考慮した場合のPAFは、男性で28.0%、女性で2.3%でしたが、受動喫煙を含めると、PAFは男性で31.3%、女性で8.4%と上昇しました。この結果から、従来の研究では受動喫煙を考慮していなかったため、喫煙が健康に与える影響を過小評価していた可能性が示唆されました。
本研究は、能動喫煙およびそれに伴う受動喫煙が、依然として死亡リスクの大きな割合を占めていることを明らかにしました。この知見は、公衆衛生の向上に貢献する重要な基盤となります。喫煙が健康に及ぼす影響は非常に大きく、受動喫煙によるリスクも無視できないことが明らかになったことから、①喫煙を始めないこと、②喫煙者の方には禁煙、③非喫煙者の方には受動喫煙を避けるための環境づくりや法整備の徹底、が求められることが示されました。
書誌情報
タイトル:Has the impact of cigarette smoking on mortality been underestimated by overlooking secondhand smoke? Tohoku Medical Megabank Community-based Cohort Study
著者名: Masato Takase, Naoki Nakaya, Kozo Tanno, Mana Kogure, Rieko Hatanaka, Kumi Nakaya, Ippei Chiba, Sayuri Tokioka, Kotaro Nochioka, Takahiro Tabuchi, Taku Obara, Mami Ishikuro, Yuka Kotozaki, Akira Uruno, Tomoko Kobayashi, Eiichi N Kodama, Yohei Hamanaka, Masatsugu Orui, Soichi Ogishima, Satoshi Nagaie, Takahito Nasu, Hideki Ohmomo, Nobuo Fuse, Junichi Sugawara, Shinichi Kuriyama, Yoko Izumi, and Atsushi Hozawa
掲載誌:BMJ Public Health
掲載日:2025年4月2日
DOI:10.1136/bmjph-2024-001746