産後1ヶ月のうつ症状に「精神的な辛さのために自分自身を傷つけてしまいたい気持ち」を組み合わせた方が、うつ症状単独よりも産後6・12ヶ月時点のうつ症状を有するリスクを的確に評価できることをまとめた論文が、国際科学誌PCN Reportsに掲載されました。
産婦健診では、エジンバラ産後うつ病質問票(EPDS)を用いて産後のメンタルを評価しています。EPDSが9点以上を高リスク群として対応していますが、EPDSの項目のひとつである「精神的な辛さのために自分自身を傷つけてしまいたい気持ち(自傷行為念慮)」に該当がある場合も高リスク群として対応すべきとされています。しかし中には、EPDSの点数のみを判断基準としている自治体もあることから、うつ症状の的確な評価方法の検討のためこの研究を行いました。
今回、三世代コホート調査に参加している12,358名の産後女性を対象に、産後1ヶ月時点のうつ症状(EPDS 9点以上)と自傷行為念慮(1点以上)を組み合わせた4群[A群:うつ症状・自傷行為念慮いずれもあり、B群:うつ症状あり, 自傷行為念慮なし、C群:うつ症状なし, 自傷行為念慮あり、D群(参照):うつ症状・自傷行為念慮いずれもなし]に分けて、産後6・12ヶ月後のうつ症状を有するリスクを検討しました。
その結果、産後1ヶ月時点でうつ症状と自傷行為念慮を有するA群は、D群と比較して、産後6・12ヶ月いずれも8.41倍、6.32倍うつ症状を有するリスクが高く、自傷行為念慮を考慮しない場合(A群+B群、産後6ヶ月:5.88倍、産後12ヶ月:3.93倍)よりも高いリスクがあることがわかりました。自傷行為念慮だけがあるC群でも、産後6・12ヶ月でのリスクはいずれも2倍程度でした。
産後1ヶ月時点での自傷行為念慮を考慮することが、より的確に産後女性のメンタルヘルスを評価できることが示されました。
書誌情報
タイトル:Evaluation of depression at 6 and 12 months postpartum by examining depressive symptoms and self-harm ideation during the early postpartum period: Tohoku Medical Megabank Project Birth and Three-Generation Cohort Study
著者名:Masatsugu Orui, Taku Obara,Mami Ishikuro,Aoi Noda,Genki Shinoda,Keiko Murakami,Noriyuki Iwama,Ippei Chiba,Kumi Nakaya,Rieko Hatanaka,Mana Kogure,Natsuko Kobayashi, Saya Kikuchi, Hirohito Metoki, Masahiro Kikuya, Naoki Nakaya,Atsushi Hozawa,Hiroaki Tomita, Shinichi Kuriyama
掲載誌:PCN Reports
掲載日:2024年11月4日
DOI:10.1002/pcn5.70025