地域住民コホート調査をもとにしたポリジェニックリスクスコア(PRS)*1、生活習慣スコアの組み合わせと高血圧有病に関する論文がHypertension research誌に掲載されました。
高血圧は生活習慣だけでなく遺伝リスクも関与する疾患とされています。これまで、欧米人を対象として、遺伝リスクおよび生活習慣と高血圧の関連が明らかにされていますが、日本人を対象にした研究は限られていました。また、家庭で測定した血圧は、診察室で測定した血圧よりも予後予測能が高いことが報告されており、家庭血圧測定の重要性が知られていますが、PRSと家庭で測定された血圧により判定された高血圧の関連を報告した研究は国内外においてありませんでした。そこで、本研究ではバイオバンク・ジャパン*2で行われたゲノムワイド関連解析(GWAS)*3から得られた結果に基づいてPRSを算出し、それを地域住民コホート調査のゲノム解析結果にあてはめ、健康的な生活習慣(非肥満*4、非飲酒、規則的な身体活動*5、低ナトリウム・カリウム比*6)と組み合わせて高血圧有病の関連を検討しました。
本研究において、PRSと生活習慣はそれぞれ独立して高血圧有病と関連しており、遺伝リスクが低い(PRSが低値)場合でも、不健康な生活習慣を有するほど高血圧有オッズ比*7が高い関連が認められました。一方で、健康的な生活習慣を遵守していても、遺伝リスクが高い(PRSが高値)場合、高血圧有病オッズ比が高い関連が確認されました。同様の関連は、家庭で測定された血圧により判定された高血圧でも観察されました。このことから、PRSは高血圧の高リスク者の推定に有用である可能性が示されました。また、遺伝リスクに関わらず、健康的な生活習慣の遵守は高血圧予防に重要である可能性が示されました。さらに、健康的な生活習慣を有していても、遺伝リスクが高い方は、定期的なスクリーニングや早期介入が高血圧予防に必要な可能性が示されました。
*1 ポリジェニックリスクスコア(PRS):GWAS等で、疾患との関連が示唆されたゲノム多型ついて、高リスク多型がもたらす推定効果量と、各個人が持つ高リスク多型の数の積をすべて足し合わせて得られる数値。個人ごとに算出され、このスコアに基づいて、様々な疾患における遺伝的な発症リスクの高低を定量的に評価できる。疾患の有無だけでなく、血圧や血糖値などの連続的な測定値についても用いられる。
*2 バイオバンク・ジャパン:「ひとりひとりの体質に合った医療」をめざす研究の基盤として、47種類の病気の方を対象として約20万人の患者さんに協力いただいている世界最大級の疾患バイオバンク
*3 ゲノムワイド関連解析(GWAS):SNPを主としたヒトゲノムの全体をほぼカバーする数百万から数千万の変異情報について、形質と合わせて統計学的な処理を行うことで遺伝子と形質の関連性を調べる遺伝解析手法
*4非肥満: Body Mass Index(BMI)(体重(kg)を身長(m)の2乗で割った指標、体格の指標として広く用いられる)が25.0kg/m2未満と定義
*5 規則的な身体活動:中強度の身体活動を週150分以上および/または高強度の身体活動を週75分以上と定義
*6 低ナトリウム・カリウム比:随時尿から田中式で算出した推定24時間ナトリウム排泄量及びカリウム排泄量の比が2.0未満と定義
*7 オッズ比:ある事象(本研究では高血圧)が起こる確率と起こらない確率の比のことです。オッズ比は2つのオッズの比であり、ある事象の起こりやすさを2つの群で比較して示すときの指標です。オッズ比が1より大きいと事象が起こりやすい(持ちやすい) 、小さいと起こりにくい(持ちにくい)ことを示します。本研究では、不健康な生活習慣を有する群ではオッズ比が1よりも大きくなっているため、不健康な生活習慣があるほど高血圧を持ちやすいことを示しています。
書誌情報
タイトル:Associations of combined genetic and lifestyle risks with hypertension and home hypertension
著者名:Masato Takase, Takumi Hirata, Naoki Nakaya, Tomohiro Nakamura, Mana Kogure, Rieko Hatanaka, Kumi Nakaya, Ippei Chiba, Ikumi Kanno, Kotaro Nochioka, Naho Tsuchiya, Akira Narita, Hirohito Metoki, Michihiro Satoh, Taku Obara, Mami Ishikuro, Hisashi Ohseto, Akira Uruno, Tomoko Kobayashi, Eiichi N Kodama, Yohei Hamanaka, Masatsugu Orui, Soichi Ogishima, Satoshi Nagaie, Nobuo Fuse, Junichi Sugawara, Shinichi Kuriyama, Gen Tamiya, Atsushi Hozawa, Masayuki Yamamoto, and the ToMMo investigators.
掲載誌:Hypertension research
公開日:2024年6月24日
DOI:10.1038/s41440-024-01705-8