人がどれだけお酒を飲むか(飲酒習慣や量)は、遺伝因子によっても影響を受けます。日本人を含む東アジア人集団では、お酒に弱い、またはまったく飲めない人が、全体の約4割を占めると言われています。これは主に、2型アルデヒド脱水素酵素遺伝子(aldehyde dehydrogenase 2; ALDH2)のrs671と呼ばれる箇所の違い(多型)が強く関係していることが分かっていますが、他にも飲酒行動に影響を与える遺伝因子が存在すると考えられます。
愛知県がんセンター がん予防研究分野の松尾恵太郎分野長らの共同研究グループは、日本分子疫学コンソーシアム(J-CGE)、ながはまコホート、およびバイオバンク・ジャパンで収集された日本人集団約176,000人のデータを、rs671のタイプに基づいて層別し、それぞれの群で、ALDH2以外に飲酒行動に影響を与える遺伝因子を探索する全ゲノム関連解析(GWAS)を実施しました。
その結果、rs671 G/G型(お酒に強い群)とG/A型(お酒に弱い~ある程度飲める群)のそれぞれで、飲酒量を左右する別の遺伝子多型が併せて7つ検出されました。なお、A/A型(まったく飲めない人)は、実際の飲酒量がほぼ0だったため、解析には含めておりません。また、それらの多型は、G/G型の群とG/A型の群で異なる効果をもたらし、例えば、お酒に強いG/G型の人の飲酒量には影響を及ぼさない一方、お酒に弱いG/A型の人で、今回特定された遺伝子多型を持つ場合は、飲酒量が多い傾向が見られるなどの複雑な関係が示されました。
さらに、本研究で同定された遺伝子多型には、rs671のタイプとの組み合わせにより、代表的な飲酒関連がんである食道がんのリスクをより高めるものが存在することも分かりました。
これらの研究結果は、日本人の飲酒行動に関する遺伝的背景に基づいた、飲酒関連がん等の個別化予防への取組みに役立つことが期待されます。
東北メディカル・メガバンク機構およびいわて東北メディカル・メガバンク機構も、J-CGEの構成機関として本研究に参加しており、約7,900人分の調査票およびゲノムデータから、飲酒量に関連するGWASを実施しました。
本研究成果は、アメリカ科学振興協会(AAAS)のオンライン科学雑誌「Science Advances」に、1月26日付で掲載されました。
書誌情報
タイトル:Genetic architecture of alcohol consumption identified by a genotype-stratified GWAS, and impact on esophageal cancer risk in Japanese people
著者名:Yuriko N. Koyanagi, Masahiro Nakatochi, Shinichi Namba, Isao Oze, Hadrien Charvat, Akira Narita, Takahisa Kawaguchi, Hiroaki Ikezaki, Asahi Hishida, Megumi Hara, Toshiro Takezaki, Teruhide Koyama, Yohko Nakamura, Sadao Suzuki, Sakurako Katsuura-Kamano, Kiyonori Kuriki, Yasuyuki Nakamura, Kenji Takeuchi, Atsushi Hozawa, Kengo Kinoshita, Yoichi Sutoh, Kozo Tanno, Atsushi Shimizu, Hidemi Ito, Yumiko Kasugai, Yukino Kawakatsu, Yukari Taniyama, Masahiro Tajika, Yasuhiro Shimizu, Etsuji Suzuki, Yasuyuki Hosono, Issei Imoto, Yasuharu Tabara, Meiko Takahashi, Kazuya Setoh, The BioBank Japan Project, Koichi Matsuda, Shiori Nakano, Atsushi Goto, Ryoko Katagiri, Taiki Yamaji, Norie Sawada, Shoichiro Tsugane, Kenji Wakai, Masayuki Yamamoto, Makoto Sasaki, Fumihiko Matsuda, Yukinori Okada, Motoki Iwasaki, Paul Brennan, Keitaro Matsuo
掲載誌:Science Advances
公開日:26 Jan 2024
DOI:10.1126/sciadv.ade2780