熊田 和貴教授、安田 純客員教授らの研究グループは、染色体分離を制御するセパレース活性制御機構の分子メカニズムを解明し、その成果が11月29日に国際科学誌Cell Reportsに掲載されました。
がん細胞は盛んに分裂を繰り返して増殖します。その過程で、染色体分離の異常を頻繁に引き起こしてしまうため、染色体数が多様な細胞(異数体細胞)が多く作り出されています。このような染色体分離の異常ががん細胞で頻発する原因については、これまでの研究で、染色体分離のトリガーとなるセパレースという酵素の活性が早期に漏洩してしまう、ということまではつきとめられていました。また、セパレースの活性制御機構として、セキュリンとサイクリンB1の結合による活性抑制機構があることはわかっていましたが、活性化動態の異常が生じるメカニズムを十分には説明できていませんでした。
今回研究チームは、セパレースの活性化動態の異常を防ぐための機構として、サイクリンB1によるセパレース活性制御を促進する機構が存在することを発見しました。この機構によりセパレース活性の早期漏洩が防止され、染色体分離の異常が防止されていたことがわかりました。
がん細胞の多様性が治療を困難にしていますが、その多様性を生み出す原因である染色体分離異常が生じるしくみは多くのがんで共通しています。この共通のしくみを治療の標的とすることができれば、多くの進行癌を制御できるようになることが期待され、世界中で盛んに研究され始めています。今回の研究で解明したセパレース活性動態の異常を防ぐための機構は、がん細胞共通の弱点である可能性があり、がんの染色体分離異常に着目した新たな治療法の標的となると考えられます。
書誌情報
タイトル:Autocleavage of separase suppresses its premature activation by promoting binding to cyclin B1
著者:Norihisa Shindo, Kazuki Kumada, Kenji Iemura, Jun Yasuda, Haruna Fujimori, Mai Mochizuki, Keiichi Tamai, Kozo Tanaka, Toru Hirota
掲載誌:Cell Reports
掲載日:2022年11月29日
DOI:10.1016/j.celrep.2022.111723