ゲノム解析部門の齋藤さかえ講師、元池育子准教授、山本雅之機構長らと信州大学医学部皮膚科学教室 奥山隆平教授、木庭幸子准教授および宮城県立がんセンターの安田純部長(東北メディカル・メガバンク機構 客員教授)のグループによる日本人の乳房外パジェット病のゲノム解析研究の成果がJournal of Dermatological Science誌に掲載されました。
本研究では、東北メディカル・メガバンク計画で構築された日本人全ゲノムリファレンスパネルを活用しながら、皮膚の悪性腫瘍である乳房外パジェット病検体16例の体細胞遺伝子変異について、エクソーム解析などによって解析しました。その結果、TP53、PIK3CA、ERBB2遺伝子に発がんと関連のある変異と、これまで報告のない染色体領域の増加や欠失などを認めました。本研究成果は同疾患の治療方針の策定や病態解明に貢献することが期待されます。
詳細
乳房外パジェット病は高齢者の陰部や腋窩に生じることが多く、汗腺がその原基と考えられています。乳房外パジェット病の遺伝子変異に関しては、これまでも各種のがん関連遺伝子の体細胞変異が海外から報告されてきましたが、日本ではほとんど報告がありませんでした。今回の研究では次世代シークエンサーを活用して、日本人症例3例の乳房外パジェット病におけるエクソーム解析*1を実施しました。その結果、それぞれ1,000箇所を超える変異が乳房外パジェット病検体のエクソン領域に検出されました。さらに、エクソーム解析結果の検証のために、16例の乳房外パジェット病検体のゲノムDNAについて、次世代シークエンサーを活用した配列解析を行いました。その結果、TP53遺伝子に6例、PIK3CA遺伝子に2例、ERBB2遺伝子に1例など、臨床上重要ながん関連遺伝子に変異を検出しました。また、悪性腫瘍では染色体の部分的な欠失や増加が認められ、それが予後と関連することが知られています。
そして本研究ではSNPアレイ*2を活用し、エクソーム解析を実施した乳房外パジェット病検体3例について、染色体領域のコピー数の検討も実施しました。その結果、12番染色体の短腕領域の増加、3番染色体短腕、7番染色体長腕、13番染色体長腕の欠失を検出しました。乳房外パジェット病でのこれらの染色体領域の増加や欠失の報告はなく、新規の発見でした。本研究成果は同疾患の治療方針の策定や病態解明に貢献することが期待されます。
*1. エクソーム解析:ゲノム中のエクソン(遺伝子の中でメッセンジャーRNAとして読みだされる領域)を網羅的に解読する技術。
*2. SNPアレイ:ゲノム中の一塩基多型(SNP, single nucleotide polymorphism)を検出するための技術。ジャポニカアレイ®もその一つ。
論文情報
タイトル:Identification of genetic alterations in extramammary Paget disease using whole exome analysis
著者:Yukiko Kiniwa, Jun Yasuda, Sakae Saito, Rumiko Saito, Ikuko N.Motoike, Inaho Danjoh, Kengo Kinoshita, Nobuo Fuse, Masayuki Yamamoto, Ryuhei Okuyama
掲載誌:Journal Dermatological Science
掲載日:11 April 2019
DOI:10.1016/j.jdermsci.2019.03.006