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ミニシンポジウム「“人種”とゲノム:15万人バイオバンクをめぐる文化人類学者との対話」を開催しました

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10月7日(月)に、医学研究における「人種」や「民族」などヒト集団に関するラベリングをテーマとして、竹沢泰子教授(関西外国語大学 国際文化研究所)、田宮元教授(東北大学大学院 医学系研究科)、大久保雄規氏(東京大学大学院 新領域創成科学研究科 博士後期課程)から講演・研究報告をいただきました。

冒頭、長神風二教授が趣旨説明を行いました。ラベリングをめぐる国際情勢の変化や日本社会の多様化等の背景を受け、「日本人の健康」や「日本人集団」の定義をどのように考えるのかといった課題が存在しています。9月の東北メディカル・メガバンク計画の全ゲノムリファレンスパネルの更新に際し、前回からパネル作成のプロセスを変更しましたが(詳しくはこちら)、ここには後述する大久保氏報告にある、全米アカデミーズの報告書(2023)の求める多様性尊重も関わっています。ゲノム科学をとりまくこうした変化や課題があるなかで、そもそも「人種」はなぜ・どのように問題になってきたのか、それが遺伝と結びついた際にどのような点に注意が必要なのか、といったことを異分野間の「対話」から考えるきっかけとして本会が企画されました。

文化人類学が専門の竹沢先生からは、「科学において「人種」はいかに創られ解体されてきたのか:一つの問題提起として」と題して、「人種」が移民の排除や植民地支配正当化の道具に用いられてきたこと、現在では生物学的人種は否定されていることが説明されました。また現在も使われている「コーカソイド」「ネグロイド」「モンゴロイド」といった類型的思考の誤りやユダヤ・キリスト教的価値観の反映にも触れられました。その一方で人種という「神話」解体への貢献として、移民の形質が一世代間でも変化することを根拠に環境要因の重要性を示したアメリカの文化人類学者フランツ・ボアズらの仕事にはじまり、最近のアメリカ生物人類学会等の声明文などが挙げられました。最後に、竹沢先生が取り組んできた自然人類学者や遺伝学者らとの共同研究による人種概念の検討や高校生を対象としたアウトリーチなどの成果が紹介されました。

田宮先生は、「医学研究における人種・民族・祖先性の意味」と題した報告を行いました。近年アメリカを中心に、「人種」「民族」「祖先性」といったラベルの用いられ方に関する議論が活発化していることをうけ、その経緯としてクラスター vs. クライン論争といったこれまでの議論について整理されました。遺伝的祖先性を検討するうえで集団に対する名称のコンセンサスを得るのが困難であったものの、近年のゲノム解析手法の発展によって、集団の定義に対する妥当性と倫理面での議論が再燃していること、またアメリカの製薬業界等を中心に多様性対応が必要となっていることから、今後日本でもそれが求められていくという展望が示されました。

大久保氏は、「個人のルーツを表す変数の使用法に関する全米アカデミーズ報告」と題した報告を行いました。日本の学術会議に相当する全米アカデミーズによる200頁におよぶ報告書のレビューとして、13項目の推奨事項の要点が提示されました。ゲノム研究のサンプリング・分析・結果の解釈・報告の各段階において、遺伝的祖先性や人種のラベリングを安易に用いることの問題点として、例えばアメリカ国勢調査における「人種」の自己申告を分析変数としてそのまま用いること、研究上の必要性がないのに祖先性に言及することなどが挙げられています。問題点に対する推奨事項として、被調査者を研究デザインに巻き込むことや、遺伝要因と並行して環境要因についても社会科学者や疫学者らと協働しながら測るべきこと等が挙げられました。

会場の講堂には、ゲノム科学者を中心に、倫理研究、情報科学、文化人類学、考古学の専門家ら80名近い参加者が集まり、活発な議論が交わされました。本テーマの重要性とむずかしさ、ならびに今後の異分野間そして社会との「対話」を継続することの必要性が確認されました。

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