発表のポイント
・全国の6万人以上のがん患者のがん遺伝子パネル検査のデータベース(C-CATデータ)から遺伝子変異と患者予後などの治療成績を解析しました。
・様々ながん種において、遺伝子の発現を誘導する重要な経路KEAP1-NRF2システムの特定の変異が、患者の予後不良、がんの悪性度と関連していることが明らかになりました。
・KEAP1-NRF2システムをターゲットとした新たながん個別化医療の開発が進むことが期待されます。
概要
KEAP1-NRF2システムは、生体内の様々な酸化ストレスに対して遺伝子の発現を誘導する重要な経路です。一部のがん細胞では遺伝子変異によりこのシステムが異常に活性化し、がんの悪性化に関与することが知られています。しかし、その変化がどのようながん種でどのくらいの頻度で悪性化に影響するのかは不明でした。
東北大学大学院医学系研究科臨床腫瘍学分野の岩崎智行大学院生、城田英和准教授らの研究グループと東北大学東北メディカル・メガバンク機構の山本雅之教授らの研究グループは、全国のがん遺伝子パネル検査データベースであるC-CATデータを用いて、6万人以上のがん患者データを解析し、KEAP1遺伝子とNRF2遺伝子の変異分布と予後との関連を詳細に調べました。その結果、様々ながん種において、KEAP1-NRF2システムの特定の変異とがんの悪性化、患者の予後不良、化学療法抵抗性との関連を初めて明らかにしました。
これらの結果から、がん患者一人ひとりの遺伝子変異を詳しく調べることで、KEAP1-NRF2システムの異常活性化を早期に発見し、より適切な治療法を選択できる可能性が示唆されました。さらに加えてKEAP1-NRF2システムをターゲットとした新たながん治療薬の開発が進むことが期待されます。
本論文は、9月27日(日本時間)に国際学術誌Cancer Scienceに掲載されました。
論文情報
タイトル:Specific cancer types and prognosis in patients with variations in the KEAP1-NRF2 system: A retrospective cohort study
著者:岩崎智行、城田英和*、佐々木啓寿、大内康太、中山勇樹、押切裕之、大槻晃史、鈴木隆史、山本雅之、石岡千加史
*責任著者:東北大学大学院医学系研究科臨床腫瘍学分野 城田英和
掲載誌:Cancer Science
DOI:10.1111/cas.16355