発表のポイント
① 緑内障は日本の視覚障害の原因第一位であり、失明を防ぐためには早期発見が重要である。
② 研究グループは、日本人の原発開放隅角緑内障の遺伝的リスクを推定する方法を開発。
③ 個人の遺伝的リスクを考慮した早期診断法や予防法の構築に役立つことが期待される。
概要
現在、日本の視覚障害の原因で最も多いのは緑内障であり、原発開放隅角緑内障が主要な病型です。眼圧や近視など眼科的な要因に加えて、遺伝的な要因が発症に関与していることがこれまでの研究で明らかになっています。報告者らの研究グループは、原発開放隅角緑内障のなりやすさに関わるゲノム上の感受性領域をこれまでに報告してきましたが、疾患発症に及ぼす影響については十分に検証されていませんでした。
九州大学大学院医学研究院眼病態イメージング講座の秋山雅人講師、眼科学分野の藤原康太助教、園田康平教授、衛生・公衆衛生学分野の二宮利治教授、東北大学大学院医学系研究科眼科学分野の中澤徹教授、東北大学東北メディカル・メガバンク機構ゲノム解析部門の田宮元教授、東京大学大学院新領域創成科学研究科複雑形質ゲノム解析分野の鎌谷洋一郎教授らを中心とした研究グループは、個人の原発開放隅角緑内障の遺伝的ななりやすさを数値化する手法の開発に取り組みました。
東北大学が収集した患者-対照サンプルを用いて複数の遺伝的リスク計算法の精度を検証したところ、国際コンソーシアムが報告した127の遺伝的変異のうち、東京大学医科学研究所のバイオバンク・ジャパンの研究参加者で実施されたゲノムワイド関連解析 (GWAS)の結果が参照可能な98の遺伝的変異に基づき算出した遺伝的リスク計算法が最も優れた判別能を示しました (受信者動作特性 [ROC]曲線下面積: 0.65)。この結果は、日本緑内障学会遺伝子関連研究班と日本眼科学会 ゲノム研究委員会により収集された患者-対照サンプルでも、同等の性能であることが確認されました (ROC曲線下面積: 0.64)。遺伝的なリスクが下位10%と上位10%に分類される方を比較すると、患者と対照の割合には大きな違いがあることが確認されました (オッズ比: 6.15)。ここまでの解析は主に大学病院を受診した比較的重症な患者さんを対象としていたため、開発された遺伝的リスク推定法について、九州大学が実施している疫学研究である久山町研究で取得されたデータでも検証を行いました。この結果、一般住民においても遺伝的リスクが下位20%と上位20%に分類される方では、遺伝的リスクが高い群で患者の割合が多いことが確認されました。さらに、緑内障を発症していない住民において、原発開放隅角緑内障の遺伝的リスクが高い人は、眼圧が高く視神経乳頭陥凹比が大きいことがわかりました。今回の研究成果により、日本人において原発開放隅角緑内障の発症リスクの判定が遺伝情報から可能であることが示されました。本研究成果は、一人一人の遺伝的な緑内障のなりやすさの違いに応じたスクリーニング検査や発症予防に役立つことが期待されます。
本研究成果は米国の雑誌「Ophthalmology」に2024年7月18日(木)(日本時間)に掲載されました。
論文情報
タイトル:Genetic Risk Stratification of Primary Open-Angle Glaucoma in Japanese Individuals
著者:Akiyama M, Tamiya G, Fujiwara K, Shiga Y, Yokoyama Y, Hashimoto K, Sato M, Sato K, Narita A, Hashimoto S, Ueda E, Furuta Y, Hata J, Miyake M, Ikeda OH, Suda K, Numa S, Mori Y, Morino K, Murakami Y, Shimokawa S, Nakamura S, Yawata N, Fujisawa K, Yamana S, Mori K, Ikeda Y, Miyata K, Mori K, Ogino K, Koyanagi Y, Kamatani Y, Ninomiya T, Sonoda KH, Nakazawa T.
掲載誌:Ophthalmology
Available online 17 July 2024
DOI:10.1016/j.ophtha.2024.05.026