ToMMoで推進している三世代コホート調査は、7万人規模の家系情報付きのゲノムコホート研究で、これまでにさまざまな成果を出しています。この度、三世代コホート調査で収集した生活習慣情報、遺伝情報を使用し、低出生体重の早期予測モデルを構築し、予測に影響力の高い重要な遺伝・環境要因を明らかにしたため、論文としてBMC Pregnancy and Childbirth誌で発表しました。
発表のポイントは次の3つです。
・低出生体重を早産*1群、満期産*1群に層別化し、生活習慣情報および遺伝情報に基づく早期予測モデルを構築した。
・早産群では、遺伝情報に基づく予測モデルが高い性能を示したのに対して、満期産群では、生活習慣情報に基づく予測モデルが高い性能を示した。
・確立した予測モデルの解析により、早産群では母親の炎症反応の制御や細菌への反応に関係する遺伝因子が予測に影響がある一方で、満期産群では、母親の食生活に関わる生活習慣と、両親から受け継がれる、胎児の発育に関わる遺伝因子が予測に影響があることが明らかになった。
低出生体重は、出生時体重が2,500g未満で定義され、6-20%の新生児が低出生体重児として出生します。出生時体重は、小児期の認知機能障害や身体発育遅延、青年期以降の高血圧や精神疾患のリスク因子として知られている、児の生涯に渡って影響のある重要な疾病であり、低出生体重の早期予測による早期介入の確立や、その詳細な発症メカニズムの解明は、健康社会の実現に非常に重要です。
今回、ToMMoの荻島創一教授の研究グループでは、低出生体重児を出産時の妊娠週数37週で、早産群と満期産群に分け、それぞれで早期予測モデルを構築し、早産群では、遺伝要因に基づく予測モデルで、満期産群では生活習慣に基づく予測モデルで、それぞれ最大のAUC*2が0.95, 0.96の高い予測性能を示しました。さらに、本研究では、確立した予測モデルを解析することで、予測に影響力のある、重要な因子を解明しました。満期産群では、生活習慣の中でも、特に妊娠前から妊娠早期の食生活に関係する要因が、予測への影響力が高いことを発見しました。これは、妊婦の生活習慣への早期介入により、低出生体重のリスクを低減できる可能性を示唆しています。また、満期産群では、遺伝要因に基づく予測モデルでも中程度(最大でF1*2値が0.84)の性能を示し、予測モデルの解析で、インスリン分泌制御や成長ホルモンの分泌制御など、胎児の発育に関係する因子が、予測への影響力が高いことを発見しました。満期産群の低出生体重の主な原因は原因不明の胎児発育不全(fetal growth restriction : FGR)と言われており、今回発見した遺伝要因・環境要因が満期産での低出生体重のメカニズムの解明に貢献することが期待されます。一方、早産群の予測モデルの解析では、炎症反応で中心的な役割を果たすシグナル伝達系を制御する因子と、バクテリアへの反応を制御する因子の、予測への影響力が高いことを発見しました。早産群の低出生体重の主な原因は細菌感染と言われており、今回発見した因子が、低出生体重の新たな治療ターゲットとなることが期待されます。
今後も継続して、妊婦が自らの体質を知り、生活習慣を改善して、低出生体重の予防をするということを目指して研究を続けていきたいと思います。
用語説明
※1 早産・満期産:児の出生時の妊娠週数が37週未満の場合が早産、それ以降の場合が満期産。
※2 AUC・F1値:予測モデルの性能の指標であり、最大は1.0
書誌情報
タイトル:Establishment of the early prediction models of low-birth-weight reveals influential genetic and environmental factors: a prospective cohort study
「低出生体重の層別化に基づく早期予測モデルの確立により、予測に影響力の高い重要な遺伝・環境要因を明らかにした」
著者:
○東北大学東北メディカル・メガバンク機構 水野聖士、永家聖、田宮元、栗山進一、小原拓、石黒真美、木下賢吾、菅原準一#†、山本雅之#、八重樫伸生#、荻島創一
○東京医科歯科大学医療データ科学推進室 田中博
#東北大学大学院医学系研究科を兼任、
†鈴木記念病院を兼任
掲載誌:BMC Pregnancy and Childbirth
公開日:2023年8月31日
DOI:10.1186/s12884-023-05919-5
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