発表のポイント
• 抗がん剤の副作用発現の原因となるDPYD 遺伝子多型には著しい民族集団差が存在するため、日本人集団における低頻度の遺伝子多型を考慮した解析が重要。
• 東北メディカル・メガバンク機構が構築した「日本人全ゲノムリファレンスパネル 3.5KJPN」を活用して、5-フルオロウラシル(5-FU)系抗がん剤を生体内で分解する薬物代謝酵素の機能低下を起こすDPYD遺伝子多型9種類を特定。
• 酵素機能が低下する遺伝子多型を有する場合、5-FU系抗がん剤によって重篤な副作用が発現する可能性があるため、遺伝子多型を事前に検査することで重篤な副作用発現を回避できるようになると期待。
概要
これまで、5-FU系抗がん剤の解毒代謝酵素であるジヒドロピリミジンデヒドロゲナーゼ(DPD)の遺伝子DPYDについて、重篤な副作用発現を予測する遺伝子多型マーカーが、欧米の先行研究で4種類報告されており、既に欧米の治療ガイドラインに記載されています。しかし、DPYD遺伝子多型には著しい民族集団差があり、日本人をはじめとする東アジア人集団では、5-FU系抗がん剤の副作用発現を予測できる遺伝子多型マーカーがありませんでした。最近、東北メディカル・メガバンク機構(ToMMo)による大規模な一般住民集団の全ゲノム解析によって、これまで見落とされてきたDPYD遺伝子多型が数多く同定されてきました。これらの遺伝子多型の中には、日本人集団に特有の5-FU系抗がん剤の体内動態変動を予測する遺伝子多型マーカーが存在する可能性があります。
東北大学未来型医療創成センター(INGEM)の菱沼 英史(ひしぬま えいじ)助教と東北大学大学院薬学研究科の平塚 真弘(ひらつか まさひろ)准教授(生活習慣病治療薬学分野、ToMMo、INGEM、東北大学病院兼任)らの研究グループは、ToMMoが公開する「日本人全ゲノムリファレンスパネル」を利用して、5-FU系抗がん剤の代謝酵素DPDの41種類の遺伝子多型バリアントタンパク質について、酵素機能に与える影響とそのメカニズムを解明しました。
本研究では日本人3,554人の全ゲノム解析で同定された41種類のDPYD遺伝子多型がDPD酵素の機能に与える影響を、遺伝子組換え酵素タンパク質を用いて網羅的に解析し、9種類の遺伝子多型で酵素機能が低下または消失することを明らかにしました。本研究の成果は、5-FU系抗がん剤で重篤な副作用が発現する可能性が高い患者を遺伝子多型診断で特定し、個々に最適な個別化がん化学療法を展開する上で、極めて重要な情報となることが期待できます。
本研究成果は2022年6月15日にFrontiers in Pharmacologyで公開されました。
書誌情報
タイトル:Importance of Rare DPYD Genetic Polymorphisms for 5-Fluorouracil Therapy in the Japanese Population(日本人集団の5-フルオロウラシル療法における希少なDPYD遺伝子多型の重要性)
著者:Eiji Hishinuma, Yoko Narita, Kai Obuchi, Akiko Ueda, Sakae Saito, Shu Tadaka, Kengo Kinoshita, Masamitsu Maekawa, Nariyasu Mano, Noriyasu Hirasawa, Masahiro Hiratsuka
掲載誌:Frontiers in Pharmacology
掲載日:2022年6月15日
DOI: 10.3389/fphar.2022.930470
用語説明
DPYD:
生体内のウラシルやチミン、抗がん剤の5-FUを分解する酵素であるDihydropyrimidine dehydrogenase(ジヒドロピリミジンデヒドロゲナーゼ)の遺伝子。DPYD遺伝子からDPDタンパク質が作られる。
日本人全ゲノムリファレンスパネル:
数千人規模の全ゲノム解析を行い構築した日本人のリファレンスパネル。一塩基バリアント(Single Nucleotide Variant:SNV)、挿入・欠失の位置情報、アレル頻度情報などをまとめたデータベース。紹介ページ
関連リンク
抗がん剤の重篤な副作用発現に影響を及ぼす薬物代謝酵素の遺伝的特性を解明- 5-フルオロウラシル系抗がん剤の個別化薬物療法実現へ期待 -【プレスリリース】
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