ゲノム解析部門の三枝大輔講師と小柴生造教授(未来型医療創成センター兼任)らのグループは、ToMMoにおけるオミックス解析基盤技術である、質量分析計(MS)および核磁気共鳴装置(NMR)による生体内代謝物群(メタボローム)解析が、疾患バイオマーカー探索や薬剤副作用解析に有用であることを示した総説論文を執筆し、Drug Metabolism and Pharmacokinetics誌に掲載されました。
生体内に含まれるメタボロームは、個人毎の表現型の違いを比較的良く反映することから、疾患発症や治療効果を評価するバイオマーカーとしての有効性が着目されつつあり、個別化医療へ応用性が期待されています。
ToMMoは、プロジェクト開始当初から、大規模コホート研究で得られた血漿試料を対象としたメタボローム解析に取り組んできました。三枝講師らのグループは、これまでの研究において、MSの特性を活かしたメタボローム解析基盤技術を複数確立し、小柴教授らが開発したNMRによるメタボローム解析手法と組み合わせることで、大規模メタボローム解析への有用性を示してきました。
本論文は、ToMMoで確立したメタボローム解析手法に加え、先行研究で発表された解析基盤技術の特性を概説し、メタボローム解析に供する試料の最適な前処理方法から分析手法に関する戦略について記述しています。また、疾患予防に加え薬剤治療や副作用予防に資するバイオマーカー探索への有用性について、ファーマコメタボロミクスへの応用例やゲノムワイド関連解析と組み合わせた研究例を挙げて示しています。さらには、国際的な施設間連携共同研究で実施されているメタボローム解析手法の標準化について、ToMMoで開発している日本人多層オミックス参照パネル(Japanese Multi Omics Reference Panel: jMorp)の最新の取り組みとその活用法についても記述しています。
ToMMoで大規模に実施されているメタボローム解析は、既に国内外の研究者から高く評価されています。本論文は、今後のファーマコメタボロミクスにおける技術的な戦略に加え、疾患および薬剤副作用解析に対する大規模メタボロームリファレンスの重要性に言及したものであり、今後のメタボローム解析を用いたバイオマーカー探索研究や国際標準化に向けた取り組みの基盤になることが期待されます。
書誌情報
タイトル:Identification of biomarkers to diagnose diseases and find adverse drug reactions by metabolomics
著者:Daisuke Saigusa, Naomi Matsukawa, Eiji Hishinuma, Seizo Koshiba
掲載誌:Drug Metabolism and Pharmacokinetics
Published:February 22nd, 2021
DOI:10.1016/j.dmpk.2020.11.008