地域住民コホート調査をもとにした高尿酸血症のポリジェニックリスクスコア(PRS)*1と生活習慣スコアの組み合わせが、高尿酸血症発症に与える影響を検討した論文がRheumatology誌(英国リウマチ学会の公式国際医学雑誌)に掲載されました。
高尿酸血症は、生活習慣だけでなく遺伝リスクも関与する疾患とされています。これまで、遺伝リスクおよび生活習慣と高血圧や糖尿病などの疾患の関連が明らかにされてきていますが、高尿酸血症の発症に対する遺伝リスクおよび生活習慣の影響を検討した研究は海外を含め1件のみと、研究が限られていました。そこで、本研究ではバイオバンク・ジャパン*2を含む日本人集団を対象として行われたゲノムワイド関連解析(GWAS)*3のメタアナリシス*4から得られた結果に基づいてPRSを算出し、健康的な生活習慣(非飲酒、非喫煙、非肥満*5、規則的な身体活動*6)を組み合わせて高尿酸血症発症の関連を検討しました。
本研究において、高尿酸血症のPRSと生活習慣はそれぞれ独立して高尿酸血症と関連しており、遺伝リスクが低い(PRS低値)場合でも、不健康な生活習慣を有するほど高尿酸血症の発症リスクが高い関連が認められました。一方で、健康的な生活習慣を遵守していても、遺伝リスクが高い(PRS高値)場合、高尿酸血症の発症リスクが高くなりました。前者の結果からは、個人の体質に関わらず、健康的な生活習慣を遵守することが高尿酸血症発症予防に重要となる可能性が示されました。後者の結果では、健康的な生活習慣を遵守していても、高尿酸血症の発症リスクが高い集団があり、定期的な健診・医療受診が高尿酸血症発症予防に重要となる可能性が示されました。
本研究は遺伝情報と生活習慣の両者を考慮することで、個人の体質に応じた高尿酸血症発症リスクを算出することが可能であることを示した、個別化予防を実現するための基盤となる知見です。今後は個人の遺伝リスク(体質)に応じた効果的な予防介入戦略が期待されます。
*1 ポリジェニックリスクスコア(PRS):GWAS等で、疾患との関連が示唆されたゲノム多型サイトについて、高リスク多型がもたらす推定効果量と、各個人が持つ高リスク多型の数の積をすべて足し合わせて得られる数値。個人ごとに算出され、このスコアに基づいて、様々な疾患における遺伝的な発症リスクの高低を定量的に評価できる。疾患の有無だけでなく、血圧や血糖値、尿酸などの連続的な測定値についても用いられる。
*2 バイオバンク・ジャパン:「ひとりひとりの体質に合った医療」をめざす研究の基盤として、47種類の病気の方を対象として約20万人の患者さんに協力いただいている世界最大級の疾患バイオバンク。
*3 ゲノムワイド関連解析(GWAS):SNPを主としたヒトゲノムの全体をほぼカバーする数百万から数千万の変異情報について、形質と合わせて統計学的な処理を行うことで遺伝子と形質の関連性を調べる遺伝解析手法。
*4 メタアナリシス:複数の研究の結果を統合して、ある要因が特定の疾患と関連するか解析する統計手法。
*5 非肥満: Body Mass Index(BMI)(体重(kg)を身長(m)の2乗で割った指標、体格の指標として広く用いられる)が25.0kg/m2未満と定義。
*6 規則的な身体活動:中強度の身体活動を週150分以上および/または高強度の身体活動を週75分以上と定義。
書誌情報
タイトル:Genetic Risk, Lifestyle Adherence, and Risk of Developing Hyperuricaemia in a Japanese Population
著者名:Masato Takase, Naoki Nakaya, Tomohiro Nakamura, Mana Kogure, Rieko Hatanaka, Kumi Nakaya, Ippei Chiba, Sayuri Tokioka, Ikumi Kanno, Kotaro Nochioka, Naho Tsuchiya, Takumi Hirata, Akira Narita, Taku Obara, Mami Ishikuro, Hisashi Ohseto, Akira Uruno, Tomoko Kobayashi, Eiichi N Kodama, Yohei Hamanaka, Masatsugu Orui, Soichi Ogishima, Satoshi Nagaie, Nobuo Fuse, Junichi Sugawara, Shinichi Kuriyama, BioBank Japan Project;Koichi Matsuda, Yoko Izumi, Kengo Kinoshita, Gen Tamiya, Atsushi Hozawa, Masayuki Yamamoto, and the ToMMo investigators.
掲載誌:Rheumatology
公開日:2024年9月13日
DOI:10.1093/rheumatology/keae492.