三世代コホート調査のデータを用いた、母親の心理的苦痛及び精神神経用剤の服薬の有無と、児の行動特性との関連についての論文が、Psychiatry and Clinical Neurosciences Reports誌に掲載されました。
妊娠中の母親のうつ症状や不安症状を含む心理的苦痛は、出生した子どもの行動特性上の問題と関連することが報告されており、母児共に悪影響を及ぼす要因であることが議論されています。抗精神病薬や抗うつ薬を含む精神神経用剤に関しては、妊娠中においても基本服薬を継続して精神状態を良好に保つことがガイドラインで推奨されています。その一方で、日本では妊娠前に精神神経用剤を服薬していた母親の約半数が妊娠判明後に服薬を中断することが報告されています。そのような状況下で、母親の重度の精神症状を緩和させるための精神神経用剤の服薬により母親の心理的苦痛の症状が管理されている状況が、出生後の子どもの行動特性と関連するのかを検討した研究は存在しませんでした。
本研究では、妊娠判明から妊娠初期における精神神経用剤服薬の有無と、妊娠中期における母親の心理的苦痛(K6※1総得点が13点以上)の有無の組み合わせおよび、CBCL(Child Behavior Checklist for Ages 1½–5)※2を用いて評価された2歳時点での子どもの行動特性との関連を、三世代コホート調査のデータを用いて検討しました。
結果として、精神神経用剤の服薬も心理的苦痛もない群と比較して、精神神経用剤の服薬がなく心理的苦痛を経験していた群において、子どもの内向問題行動と外向問題行動との間に有意な関連が認められました。一方で、精神神経用剤を服薬しており心理的苦痛がない群と、精神神経用剤を服薬しており心理的苦痛がある群では関連が検出されませんでした。
精神神経用剤の服薬がなく心理的苦痛を有する妊婦において子どもの行動特性との関連が検出されたことから、妊娠中の母親に対する心理的苦痛のスクリーニング、心理社会的サポート、症状が重度の場合には適切な精神神経用剤の使用による症状の管理を検討する重要性が改めて示されました。本研究は直接的に精神神経用剤服薬によるリスクやベネフィットを示すものではありませんが、周産期の心理的苦痛に対する精神神経用剤使用のリスクとベネフィットを検討するきっかけを提示します。
※1 K6(Kessler Psychological Distress Scale):心理的苦痛のスクリーニングとして広く使用される尺度。
※2 CBCL(Child Behavior Checklist):子どもの行動チェックリスト。子どもの感情的、行動的、社会的側面を測定し、行動特性を把握するために広く用いられている尺度であり、対象の子どもをよく知っている親などの保護者が回答する。1歳半から5歳までが対象のCBCL1½–5と、6歳から18歳までが対象のCBCL6-18の2種類がある。
論文情報
タイトル:Combination of taking neuropsychiatric medications and psychological distress in pregnant women, with behavioral problems in children at 2 years of age: The Tohoku Medical Megabank Project Birth and Three-Generation Cohort Study
著者:Ippei Takahashi, Taku Obara, Saya Kikuchi, Natsuko Kobayashi, Ryo Obara, Aoi Noda, Minoru Ohsawa, Tomofumi Ishikawa, Nariyasu Mano, Hidekazu Nishigori, Fumihiko Ueno, Genki Shinoda, Keiko Murakami, Masatsugu Orui, Mami Ishikuro, Hiroaki Tomita, Shinichi Kuriyama
掲載誌:Psychiatry and Clinical Neurosciences Reports
掲載日:2024年7月25日
DOI:10.1002/pcn5.226