東北メディカル・メガバンク計画地域住民コホート調査を利用し、過敏性腸症候群の有病と関連する因子を検討した論文がJournal of Neurogastroenterology and Motility誌に掲載されました。
目的
過敏性腸症候群(IBS)は、機能性消化管障害の一つで腹部疼痛や不快感、便通異常、腹部膨満感を特徴としています。若年者や女性に多く、心理的状態と関連する可能性などが示されていますが、その病態生理はいまだ検討の途上にあります。そこで、本研究では、東北メディカル・メガバンク計画地域住民コホート調査を用いてIBSの有病と関連する因子を横断的に解析し、検証することを目的としました。
方法
TMM計画地域住民コホート調査のベースライン調査に参加し、IBS有病を判定する質問紙であるROME-II modular questionnaireに回答した16,252人(男性4,843人、女性11,409人)を対象としました。IBSの有病と関連する因子として、年齢、性別、震災での被災の程度、社会的状況(教育歴、婚姻状況、社会的孤立(LSNS-6))、ライフスタイル(喫煙歴、飲酒歴、1日の歩行時間)、心理的状態(主観的ストレス、心理的苦痛(K6)、うつ(CES-D))を検討しました。また、男女別、年齢階層別(20-49歳、50-64歳、65歳以上)での検討も行いました。
結果および結論
IBSの基準に該当する方は3,025人(18.6%)で、男性750人(15.5%)、女性2,275人(19.9%)でした。年齢が1歳上がるごとにIBS有病のオッズ比*(OR)は有意に低くなることが示されました(OR 0.98)。また、震災での家屋が一部損壊した方(OR 1.12、損壊なしを基準)、小・中・高卒の方(OR 1.20、大卒以上を基準)、専門学校・短大・高専卒の方(OR 1.21、大卒以上を基準)、歩行時間が短い方(OR 1.10、1時間以上歩行を基準)、主観的ストレスの大きい方(OR 1.77、少ないものを基準)、心理的苦痛(OR 1.58、K6が13点未満を基準)またはうつ(OR 1.76、CES-Dが16点未満を基準)を有する方でIBS有病のオッズ比が有意に高いことが示されました。中でも主観的ストレス、心理的苦痛、うつは、男女とも、また、全ての年齢階層で有意な関連を示し、IBSの病態において重要な因子である可能性が示唆されました。IBSと心理的状態の因果の検証を含めIBSの病態解明を進めることが個別化予防・治療の観点からも重要であると考えています。
*オッズ比とは、検討する因子とアウトカム(今回の研究ではIBS有病)の関連の強さを示す指標です。
書誌情報
タイトル:Factors Associated with the Prevalence of Irritable Bowel Syndrome: The Miyagi Part of the Tohoku Medical Megabank Project Community-Based Cohort Study
著者:Kumi Nakaya, Naoki Nakaya, Mana Kogure, Rieko Hatanaka, Ippei Chiba, Ikumi Kanno, Satoshi Nagaie, Tomohiro Nakamura, Motoyori Kanazawa, Soichi Ogishima, Nobuo Fuse, Shin Fukudo, Atsushi Hozawa
掲載誌:Journal of Neurogastroenterology and Motility
公開日: 2024年4月30日
DOI: 10.5056/jnm23090