東北メディカル・メガバンク計画地域住民コホート調査において、上肢の筋力(握力)と下肢の筋力(脚伸展力)に関連する生理学的因子に関してまとめた論文がBMC Public Health誌に掲載されました。
【目的】
上肢の筋力や下肢の筋力が様々な疾患と関連することが報告されていますが、それぞれの筋力と、腹囲や骨梁面積率、体脂肪率、血圧、肺機能検査、血液検査情報などの生理学的因子との関連に違いがあるのかついては明らかにされていません。そこで本研究では、握力と脚伸展力を用いて評価した筋力と様々な生理学的因子との関連について分析しました。
【方法】
東北メディカル・メガバンク計画地域住民コホート調査に参加し、調査票にご回答いただいた方のうち、握力と脚伸展力を測定された9,578人を本研究の解析対象者としました。各生理学的因子との関連については、握力と脚伸展力との関連を示す偏回帰係数*がどちらも統計学的に有意に正または負である場合に同様の関連と定義しました。また、各生理学的因子が握力もしくは脚伸展力の一方と関連を認め、もう一方の筋力とは関連を認めない場合は異なる関連と定義しました。さらに、握力もしくは脚伸展力の一方の偏回帰係数が有意に正で、もう一方の筋力の偏回帰係数が有意に負であった場合にも、異なる関連と定義しました。
【結果及び結論】
握力と脚伸展力は、男女とも骨梁面積率、肺機能、推定糸球体濾過量と正の関連を、腹囲や体脂肪率とは負の関連を認めました。拡張期血圧は、握力と男女とも正の関連を認めましたが、脚伸展力では男性の場合にのみ正の関連を認めました。HDLコレステロールと赤血球数は、女性の場合には握力と脚伸展力と正の関連を認めましたが、男性では関連を認めませんでした。脈拍数、総コレステロール、尿酸は、脚伸展力のみと関連を認め、握力とは関連を認めませんでした。HbA1cは女性の場合には握力と負の関連を示しましたが、脚伸展力とは正の関連を認めました。
このように、握力と脚伸展力は、体格や肺機能、推定糸球体濾過量と同様の関連を示しましたが、その他の因子との関連は必ずしも一致していなかったことが明らかとなりました。
*偏回帰係数とは、目的変数に対する説明変数の影響を示す指標になります。
今回の研究に当てはめると、握力(もしくは脚伸展力)が目的変数、各生理学的因子が説明変数となります。偏回帰係数が正を示す場合は、筋力が増えると生理学的因子の値も大きくなり、負を示す場合は筋力が増えると生理学的因子の値は小さくなることを示します。
書誌情報
タイトル:Association of physiological factors with grip and leg extension strength: Tohoku Medical Megabank Community-based cohort study
著者名:Yoshiaki Noji, Rieko Hatanaka, Naoki Nakaya, Mana Kogure, Kumi Nakaya, Ippei Chiba, Ikumi Kanno, Tomohiro Nakamura, Naho Tsuchiya, Haruki Momma, Yohei Hamanaka, Masatsugu Orui, Tomoko Kobayashi, Akira Uruno, Eiichi N Kodama, Ryoichi Nagatomi, Nobuo Fuse, Shinichi Kuriyama, Atsushi Hozawa
掲載誌:BMC Public Health
公開日:2024年3月5日
DOI:10.1186/s12889-024-18244-z