ToMMoの工藤 久智講師、石田 典子助教、熊田 和貴教授らの研究グループは、東北メディカル・メガバンク計画(TMM)バイオバンクに保存された、正しいID情報と紐付いた試料をバイオバンクユーザーに分譲・提供するための、マスアレイシステムを用いた新しい管理方法について、この度Biopreservation and Biobanking誌に報告しました。
多くのバイオバンクで試料数が増大する中で、生体試料と情報の正しい関係を記録することは差し迫った重要課題の1つであり、ゲノム情報は試料の身元を決定するのに役立ちます。ToMMoは日本最大級のバイオバンク(TMMバイオバンク)を運営しており、当バイオバンクではLIMS(Laboratory Information Management System:研究において試料等の処理過程を電子的に記録するシステム)を用いた生体試料のバーコード管理、自動分注機や自動保冷庫等の自動化技術の導入によりヒューマンエラーの低減に努めていますが、誤りを完全に排除することは不可能です。特に、血液検体からの単核球分離・保存、単核球からのリンパ芽球様細胞(LCL)および増殖T細胞(T細胞)の作成・保存作業は、全て手作業で行うため一定のヒューマンエラー発生が想定されます。したがってゲノム情報と同じIDの細胞試料をバイオバンクユーザーに分譲・提供するためには、品質管理を行い、発生したヒューマンエラーを検知して修正することが大変重要となります。
マスアレイは、塩基の質量の違いを質量分析器(MALDI-TOF-MS)で分析し、DNA塩基配列を決定する解析手法です。これによりSNP(一塩基多型)やINDEL(挿入/欠失)、CNV(コピー数多型)等を検出することが可能で、また一度に解析できる検体数や検出可能な遺伝子数が多いことから、このシステムの利用により、DNA試料同士はもちろんのこと、DNA試料とゲノム情報のマッチングも可能となる利点を持っています。
本論文では、マスアレイシステム用の新規プローブセットの開発を含む、TMMバイオバンクで作成・保存した細胞試料(T細胞およびLCL)の管理システム方法を紹介しました。まず、次世代シークエンシングによって検出でき、約0.5のマイナーアレル頻度で高い分解能を示した一塩基バリアント(SNV)を選択し、48人からのDNA 96サンプルに対してプローブのセットをチェックし、ゲノム配列情報との比較に問題なく使用できることを確認しました。そこでこのセットを約3,000人分のLCLと約2,250人分のT細胞から抽出したDNA試料に適用したところ、ゲノム情報との一致性98.93%の結果を得ました。不一致が見られた1.07%のサンプルについて、LIMS情報(作業内容、作業者、タイムスタンプ等の取扱い記録)を調査したところ、ほとんどが手動操作時の人為的ミス(サンプル間の取り違え)に起因することが判明し、エラーが発生しやすいいくつかのプロトコルを改善したところ、エラー率はLCLで0.47%、T細胞で0%に低下しました。
本研究で開発したシステムは、比較的簡単かつ短時間の操作で、高い精度を示しており、特にゲノム情報を保有する場合には、高品質なバンキングを促進するために、検証手順を改善する良い機会と、ヒューマンエラーにより発生した試料と情報の誤った関係を修正する手段を提供します。なお、TMMバイオバンクから分譲・提供される細胞試料は、今回報告したマスアレイによる検証を実施し、ゲノム情報との一致を確認しています。
本論文は、2023年12月11日にBiopreservation and Biobanking誌の電子版(Ahead of print)に掲載されました。
書誌情報
タイトル:Detection and Correction of Sample Misidentifications in a Biobank Using the MassARRAY System and Genomic Information
著者名:Hisaaki Kudo, Noriko Ishida, Takahiro Nobukuni, Yuichi Aoki, Sakae Saito, Ichiko Nishijima, Takahiro Terakawa, Masayuki Yamamoto, Naoko Minegishi, Riu Yamashita, Kazuki Kumada
掲載誌:Biopreservation and Biobanking
早期公開日:2023年12月11日
DOI:10.1089/bio.2022.0211