この度、東北メディカル・メガバンク機構の脳と心の健康調査(脳MRI研究)に係る論文が日本医師会雑誌に掲載されました。本論文では、この研究の背景、目的、デザイン、データマネージメントと成果について報告しています。
近年、磁気共鳴画像法(MRI)を使った、病気の早期発見やリスク評価の研究が進んでいます。その中でも特に、大規模前向きコホート研究は、認知機能低下や心の病気がどのように進行するかを詳しく理解するのに有効とされています。
こうした背景から、東北メディカル・メガバンク計画が行う地域住民および三世代コホート研究の一部として、2014年より脳と心の健康調査(脳MRI研究)を開始しました。
この研究は、経時的に同じ人々のデータを調べることで、年齢と共に脳がどのように変わるかを調べるものです。2019年までに、若年者から高齢者まで12,000人以上の人々から、脳のMRI画像と認知能力や心理状態のテスト結果を収集し、現在も、参加者の約60%から2回目のデータを集めることを目標に調査を続けています。
この研究の目的は、脳画像のデータベースを構築し、MRIのデータ、認知機能のスクリーニング結果、心理的なプロファイル、さらに脳と心の健康調査以外のコホート研究で得られた健康状態や生活習慣、体のバイオマーカー(体の情報を示す指標)などのデータを一緒に分析することで、正常な老化や認知症などの進行について新たな分析を可能にすることです。初期解析の結果より、
1)脳萎縮の指標となる、総灰白質体積、左右の海馬体積がいずれも、年齢が高くなると減少すること
2)65歳以上の計3,610人に実施した認知機能の検査の一つであるMini-Mental State Examination (MMSE: ミニメンタルステート検査)の結果から、約16%の方は認知機能低下の可能性があること
が明らかとなりました。
本研究は、健常な加齢過程における脳の構造とそれに関連する特性について、日本で初めての大規模な研究であり、世界的にも希少価値の高い研究です。
書誌情報
タイトル: Tohoku Medical Megabank Brain Magnetic Resonance Imaging Study: Rationale, Design, and Background
著者:Makiko Taira, Shunji Mugikura, Naoko Mori, Atsushi Hozawa, Tomo Saito, Tomohiro Nakamura, Hideyasu Kiyomoto, Tadao Kobayashi, Soichi Ogishima, Fuji Nagami, Akira Uruno, Ritsuko Shimizu, Tomoko Kobayashi, Jun Yasuda, Shigeo Kure, Miyuki Sakurai, Ikuko N. Motoike, Kazuki Kumada, Naoki Nakaya, Taku Obara, Kentaro Oba, Atsushi Sekiguchi, Benjamin Thyreau, Tatsushi Mutoh, Yuji Takano, Mitsunari Abe, Norihide Maikusa, Yasuko Tatewaki, Yasuyuki Taki, Nobuo Yaegashi, Hiroaki Tomita, Kengo Kinoshita, Shinichi Kuriyama, Nobuo Fuse and Masayuki Yamamoto
掲載誌: Journal of the Japan Medical Association
掲載日:2023年7月14日
DOI: 10.31662/jmaj.2022-0220