三世代コホート調査のデータを用いた、母親の心理的ストレス反応・保育施設利用の有無と児の行動特性との関連についての論文がBMC Psychiatry誌に掲載されました。
保育施設の利用は、母親の産後の心理的ストレス反応と子どもの行動特性(内向的行動や外向的行動など)との確立された関連を緩和させる要因であることが、これまでの研究で示されてきました。しかし、保育施設の利用が妊娠中の心理的ストレス反応と子どもの行動特性との関連を緩和させるかについて検討した研究はありませんでした。そこで、2歳時点での保育施設の利用が、産後2年時点だけでなく、妊娠初期における母親の心理的ストレス反応 (K6※1総得点が5点以上)と、CBCL(Child Behavior Checklist for Ages 1½–5)※2を用いて評価された4歳時点での子どもの行動特性との関連を緩和するかを、三世代コホート調査のデータを用いて検討しました。
結果として、妊娠初期および産後2年時点での母親の心理的ストレス反応は、4歳時点での子どもの行動特性と関連していました。保育施設の利用はこれらの関連を緩和しておらず、利用群・非利用群ともに母親の心理的ストレス反応と子どもの行動特性は関連がみられました。
本研究では保育施設の利用は妊娠初期だけでなく、産後2年時点での母親の心理的ストレス反応と4歳時点での子どもの行動特性との関連も緩和しませんでした。これは欧米の先行研究とは異なる結果であり、日本の周産期や保育施設の利用に関する母親を取り巻く環境が欧米とは異なる可能性があることを示唆しています。母親の妊娠中・産後の心理的ストレス反応と子どもの行動特性との関連を緩和する日本人に特異的な要因の検討が必要である可能性が、本研究結果から示唆されました。
※1 K6(Kessler Psychological Distress Scale): 心理的苦痛のスクリーニングとして広く使用される尺度。
※2 CBCL: 子どもの行動チェックリスト。子どもの感情的、行動的、社会的側面を測定し、行動特性を把握するために広く用いられている尺度であり、対象の子どもをよく知っている親などの保護者が回答する。1歳半から5歳までが対象のCBCL1½–5と、6歳から18歳までが対象のCBCL6-18の2種類がある。
書誌情報
タイトル:Association of maternal psychological distress and the use of childcare facilities with children’s behavioral problems: the Tohoku Medical Megabank Project Birth and Three-Generation Cohort Study
著者:Ippei Takahashi, Keiko Murakami, Mika Kobayashi, Saya Kikuchi, Ayaka Igarashi, Taku Obara, Mami Ishikuro, Fumihiko Ueno, Aoi Noda, Tomomi Onuma, Fumiko Matsuzaki, Natsuko Kobayashi, Hirotaka Hamada, Noriyuki Iwama, Masatoshi Saito, Junichi Sugawara, Hiroaki Tomita, Nobuo Yaegashi, Shigeo Kure, Shinichi Kuriyama
掲載誌:BMC Psychiatry
掲載日:2022年11月11日
DOI:10.1186/s12888-022-04330-2