予防医学・疫学部門の村上 慶子講師らが執筆した東日本大震災と産後うつ症状に関する論文がJournal of Affective Disorders誌に掲載されました。
地震の被災妊婦ではうつ症状を有する割合が高いという関連がこれまでの研究で示されてきましたが、産後うつ症状との関連はエビデンスが限られています。また、地震発生から1年以内の関連を検討した研究が主であり、長期的な影響は明らかではありません。そこで、三世代コホート調査のデータを用いて、2013年7月から2016年9月に調査参加に同意された妊婦さんを対象に、東日本大震災のトラウマ体験と数年後の産後うつ症状との関連を検討しました。
東日本大震災のトラウマ体験は、自身の命の危険、他者の死・危険の目撃、親しい者の喪失の3項目を尋ねました。産後1か月時にエジンバラ産後うつ病自己評価票(EPDS)に回答してもらい、総得点30点中9点以上を産後うつ症状ありとしました。その結果、1つ以上のトラウマ体験を有している割合は39.5%、産後うつ症状を有している割合は13.3%でした。自身の命の危険、他者の死・危険の目撃を経験した女性は産後にうつ症状を有する割合が高かった一方で、親しい者の喪失という経験と産後うつ症状の関連はみられませんでした。トラウマ体験の合計数が多いほど、産後うつ症状を有している割合が高かったです。
産後の女性のメンタルヘルスは、本人のみならず家族にも影響する重要な公衆衛生学的課題です。災害が産後女性のメンタルヘルスに長期的な影響を及ぼす可能性が、本研究結果より示唆されたといえます。
書誌情報
タイトル:Traumatic experiences of the Great East Japan Earthquake and postpartum depressive symptoms: the Tohoku Medical Megabank Project Birth and Three-Generation Cohort Study
著者名:Keiko Murakami, Mami Ishikuro, Taku Obara, Fumihiko Ueno, Aoi Noda, Tomomi Onuma, Fumiko Matsuzaki, Saya Kikuchi, Natsuko Kobayashi, Hirotaka Hamada, Noriyuki Iwama, Hirohito Metoki, Masahiro Kikuya, Masatoshi Saito, Junichi Sugawara, Hiroaki Tomita, Nobuo Yaegashi, Shinichi Kuriyama
掲載誌:Journal of Affective Disorders
公開日:Available online 30 September 2022.
DOI:10.1016/j.jad.2022.09.139