ゲノム解析部門の勝岡史城教授らは、ストレス応答に関わる遺伝子発現制御の分子メカニズムに関する研究を行い、その成果が国際学術誌「Molecular and Cellular Biology」にオンライン掲載されました。
遺伝子の発現は、転写因子と呼ばれるタンパク質が制御しています。多くの転写因子が、進化の早い段階では一つの因子として機能しているのに対して、ヒトを含む脊椎動物では複数の因子に多様化し、より複雑な制御を行っています。そして、多様化した各因子の機能を明らかにする事は重要な課題です。様々なストレスに応答して遺伝子の発現を担うNrf1やNrf2を含むCNC転写因子も、脊椎動物で多様化した因子であり、その機能の違いは充分に解明されていません。勝岡教授のグループは以前に、CNC転写因子の必須のパートナーである3つの小Maf群因子(MafG, MafK, MafF)を全て欠失させた細胞を樹立し、この細胞にCNCと小Maf群因子をペプチド鎖で融合させたタンパク質を導入することで、特定のCNC-小Maf二量体の機能のみを解析できる、テザード二量体レスキュー(Tethered Dimer Rescue: TDR)法を開発しました。本研究では、このTDR法を用いて、Nrf1-MafG二量体の機能を詳細に解析しました。
解析の結果、Nrf1-MafG二量体は、タンパク質分解酵素複合体プロテアソームを構成する遺伝子の一群を制御することが知られていましたが、これらに加えて、タンパク質の更新(ターンオーバー)、タンパク質の安定性に関わる遺伝子などを、広範に制御している事が明らかになりました。このTDR法では、Nrf1-MafG二量体が、Nrf2-MafG二量体の標的遺伝子である、抗酸化・解毒代謝に関わるストレス応答遺伝子を活性化することも明らかになりました。また、ゲノム上を動くトランスポゾンと呼ばれる配列の一部が、Nrf1やNrf2によるストレス応答遺伝子の発現制御にも関わることを示し、また、ヒトとマウスでは別の種類のトランスポゾンが関与している可能性を提唱しました。今回の研究成果は、ヒトのストレス応答遺伝子発現制御の理解に役立つだけでなく、ストレス応答遺伝子の発現制御の進化の理解につながることが期待されます。
書誌情報
タイトル:Target Gene Diversity of the Nrf1-MafG Transcription Factor Revealed by a Tethered Heterodimer
著者:Fumiki Katsuoka, Akihito Otsuki, Nozomi Hatanaka, Haruna Okuyama, Masayuki Yamamoto
掲載誌:Molecular and Cellular Biology
Published online: 17 March 2022
DOI:10.1128/mcb.00520-21