三世代コホート調査では、東日本大震災後の住民の健康状態を把握し、健康づくりの支援や地域の保健医療への貢献を目指してきました。本研究では、三世代コホート調査に参加いただいた妊婦さんの被災状況と、健康に関連する生活習慣の指標や、妊娠中の合併症の関連を検討いたしました。
東日本大震災の被災状況は、当時お住まいの家屋の被害状況を指標といたしました。三世代コホート調査に参加いただいた妊婦さんのうち、家屋の全壊/大規模半壊を経験した方は全体の11%でした。
健康に関連する生活習慣の指標のうち、家屋の全壊/大規模半壊を経験した方では妊娠前に過体重(body mass index ≥25kg/m2)であった割合が家屋の被害を経験していなかった方よりも高い傾向が認められました。
また、家屋の全壊/大規模半壊を経験した方では、妊娠中に妊娠高血圧症候群を発症した割合が家屋の被害を経験していなかった方よりも高いことがわかりました。さらに、家屋の全壊/大規模半壊の経験が、妊娠高血圧症候群の発症に直接的あるいは過体重を通して間接的に関連していることもわかりました。一方で、妊娠糖尿病については、被害の状況との関連は認められませんでした。
また、家屋の全壊/大規模半壊の経験した妊婦さんのお子さんにおける在胎週数はわずかに減少しておりましたが、早産や低出生体重の割合に違いは認められませんでした。
三世代コホート調査は、2013年から開始され、今回の結果は震災から少なくとも2年半後の妊婦さんの状況を捉えております。本研究の結果から、震災後も長期的に妊娠前~妊娠中の女性の健康をサポートする必要性が示唆されました。また、早産やお子さんの出生時の低体重の割合については、本研究では被害状況との関連は認められませんでしたが、先行研究ではお子さんへの世代を超えた影響についての報告もあるため、引き続き住民の方々の健康状態を注意深く把握し、地域の保健医療への継続的なフィードバックが大切だと考えます。
書誌情報
タイトル:Relation between disaster exposure, maternal characteristics, and obstetric outcomes
著者名:Mami Ishikuro, Taku Obara, Keiko Murakami, Fumihiko Ueno, Aoi Noda, Masahiro Kikuya, Junichi Sugawara, Hirohito Metoki, Shinichi Kuriyama
掲載誌:Journal of Epidemiology
掲載日:July 03, 2021(Advance online publication)
DOI:10.2188/jea.JE20210052