研究成果のポイント
• 日本人に特有および民族集団横断型の新規アルツハイマー病関連遺伝子座位群を同定
• アルツハイマー病のリスク因子群を用いた早期発症予測法の開発に貢献
• アルツハイマー病の関連分子の同定と病因解明から治療薬開発に貢献
概要
国立研究開発法人 国立長寿医療研究センター(理事長:荒井秀典、愛知県大府市。以下 国立長寿医療研究センター)メディカルゲノムセンターの尾崎浩一部長、重水大智ユニット長らの共同研究グループは、日本人および欧米人の遺伝的多型情報を基にアルツハイマー病(AD)の新規関連遺伝子座位群を発見しました。
チームは、始めに日本人のAD患者3,962人と認知機能正常者4,074人の全ゲノムにわたる一塩基多型(※1)を用いたゲノムワイド関連解析(Genome Wide Association Study; GWAS)(※2)を行い、第4染色体上FAM47E 領域に日本人に特有なAD関連を示す新規遺伝子座位を同定しました。このゲノムワイド遺伝子型データの取得には、東北大学が開発したジャポニカアレイ®(※3)が使われました。
さらに国際アルツハイマー病ゲノムプロジェクト(IGAP : International Genomics of Alzheimer’s Project)のGWAS統計データを用いて民族集団横断型メタ解析(異なる民族集団のGWASデータを統計学的に統合解析すること)を実施し、第6染色体上OR2B2 領域に新規関連遺伝子座位を同定しました。この2座位に加え、統計学的にADと示唆的な有意性を示す9座位の疾患関連候補座位を同定しました。
この研究は、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)の「臨床ゲノム情報統合データベース整備事業」による支援で実施されたもので、研究成果は科学雑誌Translational Psychiatry(トランスレーショナル・サイカイアトリー)に、2021年3月3日(JST)に掲載されました。
論文題目
タイトル: Ethnic and trans-ethnic genome-wide association studies identify new loci influencing Japanese Alzheimer’s disease risk
著者:Daichi Shigemizu, Risa Mitsumori, Shintaro Akiyama, Akinori Miyashita, Takashi Morizono, Sayuri Higaki, Yuya Asanomi, Norikazu Hara, Gen Tamiya, Kengo Kinoshita, Takeshi Ikeuchi, Shumpei Niida, Kouichi Ozaki
掲載誌:Translational Psychiatry
掲載日:2021年3月3日
DOI:10.1038/s41398-021-01272-3
用語説明
※1 一塩基多型(Single Nucleotide Polymorphism; SNP):
集団における塩基置換、挿入、欠失頻度がある程度多い置換を遺伝子多型と呼ぶ。一塩基多型とは一塩基(T:チミン、G:グアニン、C:シトシン、A:アデニン)のどれかが他の塩基に置換した遺伝子多型で、ゲノム配列の個人間での違いを示す代表的な多型。生活習慣病の発症には多くの一塩基多型などが関係しておりポリジェニック効果と呼ばれる。
※2 ゲノムワイド関連解析(Genome Wide Association Study; GWAS):
疾患、コントロール群間など形質の違いでの遺伝子多型の頻度の差を用いて疾患感受型遺伝子などを見つける方法の1つ。ある疾患の患者とその疾患にかかっていない被験者の間で、多型の頻度に差があるかどうかを統計的に検定して調べる。検定の結果得られたP値(偶然にそのような事が起こる確率)が低いほど、関連が強いと判定できる。2002年に日本の理化学研究所から初めて報告された。
※3 ジャポニカアレイ®:東北メディカル・メガバンク機構により設計されたジェノタイピングアレイ。日本人の全ゲノム配列を基に作成された民族特異的ジェノタイピングアレイ。