発表のポイント
・1,000人規模の日本人集団で複数部位(唾液・歯垢)の口腔マイクロバイオーム*1を比較した解析結果を、日本で初めて発表しました。
・解析結果から、唾液と歯垢の「マイクロバイオーム間のコミュニティ構造の違い*2」を明らかにし、微生物の多様度が歯周病の重症度と相関していることを示しました。
・今回得られたマイクロバイオーム解析結果から、個人識別性を排除した情報をインターネット上で広く公開し、詳細な結果は分譲*3により全国の研究者間の利活用に供し、多様な研究に貢献します。
概要
ヒトの健康状態は、共生している様々な微生物の各々の集団(マイクロバイオーム)と密接に関連しています。東北大学東北メディカル・メガバンク機構(ToMMo)では、長期健康調査の詳細調査参加者25,014人分の口腔検体(唾液・歯垢・舌苔)を採取し、生体試料のバイオバンクとして保存しています。
今回、これらの検体から、唾液および歯垢1,289人分のマイクロバイオーム解析を実施し、唾液と歯垢の「マイクロバイオーム間のコミュニティ構造の違い」を明らかにしました。また、微生物の多様度が、歯周病の重症度と相関していることを示しました。マイクロバイオーム解析の結果は「情報分譲」が可能です。そして、微生物の平均存在量等については、宿主であるヒトの情報がセットになった日本で初めての大規模データとしてjMorp*4にて公開しています。マイクロバイオームは生活環境や民族集団により特徴があるとされており、今回の解析結果を研究者間で共有することにより、日本人の健康増進への寄与が期待されます。
この成果は、日本時間2021年1月29日に、オープンアクセス学術誌「Frontiers Cellular and Infection Microbiology」のオンライン版で公開されました。
論文題目
タイトル: Oral microbiome analysis in prospective genome cohort studies of the Tohoku Medical Megabank Project
日本語タイトル:「東北メディカル・メガバンク計画の前向きゲノムコホート研究における口腔マイクロバイオーム解析」
著者:齋藤 さかえ、青木 裕一、玉原 亨、後藤 まき、松井 裕之、川嶋 順子、檀上 稲穂、寳澤 篤、栗山 進一、鈴木 洋一、布施 昇男、呉 繁夫、山下 理宇、田邉 修、峯岸 直子、木下 賢吾、坪井 明人、清水 律子、山本 雅之
掲載誌:Frontiers Cellular and Infection Microbiology
掲載日:2021年1月29日
DOI: 10.3389/fcimb.2020.604596
用語説明
*1 口腔マイクロバイオーム: 口腔内に生息する微生物全体を指す。微生物叢(そう)とも呼ばれる。
*2 マイクロバイオーム間のコミュニティ構造の違い: ここでは、唾液・歯垢それぞれについて微生物の種類と相対的な存在量を解析し、その成り立ちの違いを表したもの。
*3 分譲: 東北メディカル・メガバンク計画では、大規模ゲノムコホート調査由来の試料・情報を分譲することにより多くの研究者と共有している。分譲は所定の登録・審査の手続きを経て実施される。
*4 jMorp: 公開データベース日本人多層オミックス参照パネル(jMorp:Japanese Multi Omics Reference Panel)。 東北メディカル・メガバンク計画のコホート調査によって得られた試料を解析した結果を、個人識別性のない頻度情報等にして公開している。今回公開したマイクロバイオーム情報は、“Metagenome” のページで閲覧できる。