発表のポイント
・本成果は、研究で得られた遺伝情報を研究参加者に返却することに関する倫理的・法的・社会的課題(ELSI: Ethical, Legal and Social Issues)について、諸外国の事例を調査し我が国の現状も含め詳細に検討した結果を提言としてまとめたもので、我が国で初めての試みである。
・網羅的なヒトゲノム解析が一般化し、遺伝情報を取り扱う研究がますます増加していく中で、実際にそのプロジェクトに従事する研究者をはじめとした関係者が、結果返却のあり方を検討する上で、有益な示唆を与えることが期待される。
概要
東北大学東北メディカル・メガバンク機構の相澤弥生助手(現所属:大阪大学大学院医学系研究科特任研究員)、長神風二特任教授、大阪大学大学院医学系研究科の大橋範子特任研究員(現所属:同大学データビリティフロンティア機構特任助教(常勤))、加藤和人教授は、研究における遺伝情報の返却の倫理的・法的・社会的課題(ELSI)について、国内のゲノム医科学研究者・関係者らへのヒアリング等をもとに提言をまとめ、その成果が2019年12月23日に国際誌Journal of Human Genetics誌に掲載されました。
本研究では、研究でのゲノム解析によって得られた遺伝情報について、その結果を本人に返却することにおける課題を、国内外の先行事例や法令・指針の現状、ゲノム医科学の研究者や関係者へのインタビューを通じて検討しました。そして、得られた結果をもとに、研究計画における事前確認の段階から、実際の結果返却およびその後のフォローアップにいたるまでの過程で、ゲノム解析研究に携わる研究者が検討および留意すべき事項として詳細にまとめました。更に、ゲノム医学の研究コミュニティのみならず、医療や関連する行政などを含め、今後の検討や対応が必要と考えられる点をまとめて考察・提言しています。
近年、網羅的なヒトゲノム解析のコスト低減などから、研究において遺伝情報が網羅的に解析されることが増え、今後も更なる増加や大規模な集団を対象とした解析が行われることが予想されます。網羅的な解析によって得られる情報の中には、目的としていた情報以外にも、研究参加者の健康に重要な意味を持つ可能性があるものも含めた、さまざまな情報があります。それらの結果を本人に返却することについては、診療において患者の方々に遺伝学的検査の結果を伝えることとは異なる倫理的・法的・社会的課題(ELSI)があり、さまざまな検討が行われてきましたが、我が国の状況を踏まえ、包括的にまとめられた報告等はこれまでありませんでした。今回の論文は、研究におけるゲノム解析の結果返却を検討するにあたって、各研究プロジェクトが留意すべき点を包括的にまとめた初めての試みであり、今後の多くの研究における重要な基盤となり、役立てられることが期待されます。
プレリリース詳細(PDF)
論文情報
論文題目:A proposal on the first Japanese practical guidance for the return of individual genomic results in research settings
掲載誌:Journal of Human Genetics
DOI:10.1038/s10038-019-0697-y
著者:東北大学東北メディカル・メガバンク機構 相澤弥生助手(現所属:大阪大学)、長神風二特任教授
大阪大学大学院医学系研究科 大橋範子特別研究員(現所属:同大学データビリティフロンティア機構)、加藤和人教授