ゲノムプラットフォーム連携センターによる第22回ゲノム・オミックス連携推進セミナーを下記の通り開催いたします。オープンなセミナーですので、学外、学生の方々を含め、ご興味のある方はどなたでもご参加いただけます。
詳細
【日時】2月18日(火)16:00~17:30
【場所】東北メディカル・メガバンク棟 3階 大会議室
【講師】中岡 博史 先生
国立遺伝学研究所 ゲノム・進化研究系 人類遺伝研究室 助教
【演題】「子宮内膜症および正常子宮内膜における体細胞変異のクローン性増殖および異質性」
要旨
子宮内膜症は生殖年齢にある女性の約10%に認められる疾患である。本来子宮内に存在するはずの子宮内膜組織が子宮外に存在し、月経周期に合わせて出血をきたす。月経困難症、骨盤痛や不妊症との関連も指摘されており、少子化や女性の社会進出の障害として社会的損失が大きい。子宮内膜症起源として、月経時に剥がれ落ちた子宮内膜の一部が卵管を逆流し、卵巣や腹腔に生着・増殖することで、子宮内膜症が発症するという月経逆流説が有力であるが、ゲノムレベルでの実証はなされていない。また、子宮内膜症は特定の組織型の卵巣癌(明細胞癌、類内膜癌)のリスク因子となることが知られている。これら卵巣癌は子宮内膜症関連卵巣癌と呼ばれ、癌化に関わるゲノム変化について研究がなされてきた。一方、これら卵巣癌の発生母地とされる卵巣子宮内膜症について、ゲノム変化を網羅的に探索する研究は行われていない。次世代シーケンサーを用いたゲノム解析によって、卵巣子宮内膜症および正常子宮内膜における体細胞変異同定を行い、子宮内膜症発症メカニズム解明を試みた。
卵巣子宮内膜症107サンプル、正常子宮内膜82サンプルについて、レーザーマイクロダイセクション法によって上皮細胞を選択的に採取し、エクソームおよびターゲットシーケンス解析を行った。結果として、良性腫瘍である卵巣子宮内膜症のみならず、正常子宮内膜においても、KRASやPIK3CAといった癌関連遺伝子に体細胞変異が多数認められた。子宮内膜症上皮において、癌関連遺伝子変異、特にKRAS変異における変異頻度が顕著に増加していた。つまり、卵巣子宮内膜症病変において、癌関連遺伝子変異を保有する上皮細胞がクローン性に増殖していることが分かった。
さらに、正常子宮内膜上皮細胞が管状構造を呈して発達していることに着目し、腺上皮細胞を管単位で分離する実験手法を確立し、単一腺管レベルという最小機能単位でDNAシーケンスを行った。結果として、子宮内膜から採取した腺管において、PIK3CAやKRASを含む癌関連遺伝子に体細胞変異が多数検出された。驚くべきことに、各腺管で保有する変異はクローナルな状態に達していたが、腺管ごとに異なる体細胞変異を保有していた。その結果、腺管の集合体である内膜組織はゲノムがモザイク状態を呈していた。
これらの結果は、モザイク状ゲノムを呈する子宮内膜が月経血逆流を介して卵巣に生着・増殖する過程で、KRAS変異を有する腺上皮細胞が生存に有利となり、クローナルに増殖することで、子宮内膜症発症に至ることを示唆している。我々の解析は卵巣子宮内膜症発症における月経逆流説をゲノムレベルで支持する結果となった。
問い合わせ先
東北メディカル・メガバンク機構
ゲノムプラットフォーム連携センター 木下、田宮、櫻井
連絡先:seminar*gpc.megabank.tohoku.ac.jp
(*を@に変えてください)
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